盲導犬アンソニーがゆく!

アンソニー(♂)  盲導犬アンソニーは、財団法人日本盲導犬協会より無償貸与されています。     

 

2007年08月27日

同居の猫〜きりん

L2.jpg
片目のきりんネコさん  
それはまだ白杖を使って歩いていた頃のこと。いつもより少し早い仕事帰り。
五月の風がとても心地よくてその爽やかさに誘われ、
バスを見送り歩いて帰ることにした。
通学路を野球少年たちがボールを高く投げ合いながら走ってゆく。
「あらあ〜気をつけなさいよ」と八百屋のおばちゃん。
「久しぶりじゃない」と他愛のない会話をしながら、
おばちゃんの漬けたお新香をおいしくいただく。
その日はたらの芽の漬け物を求めた。
「きゅうり2本おまけしとくからね」ぬか床の香りがする
おばちゃんの手はいつだって温かく私を導いてくれる。
さらに少し遠回りしたくなり造り酒屋の方向へと歩いてゆく。
ときどき遠くに、高架を走る貨物列車の音が聞こえてくる。
酒屋の古い蔵の前一帯は昔、広い広い田んぼだった。
高校生の頃、バスを二つ手前で降りてよく寄り道をした。
水を張る前の田んぼは一面ピンク色のレンゲの絨毯となり、
よく鞄いっぱいに摘んで帰ったところだ。
つくしもいっぱい採ってきては母が佃煮にした。
今はマンションや住宅が立ち並び、その面影はまったく
ないけれど。
 
私はバス通りより、相変わらず舗装されていない蔵の裏の
細い路地を選んだ。
じゃり道を杖で少しかがりながら進ん
でゆく。しばらく歩くとふと何かが杖の先に当たった。
細い路地の真ん中では邪魔だろうと、杖でそれを除け
ようとした。ふにゃりとした感触が杖から伝わってくる。
少しツツいてみるとかなり柔らかい。
なんだろうとさらにツツいてみると、突然その柔らかい
ものは動きだし、鳴き声をあげた。それは手のひらにも
満たない小さな小さな仔ネコだった。
驚いて抱き上げると、
かなり痩せ細りあばらが浮きだしていた。
身体を撫でてみると力強い声でまた鳴いた。

その頃すでに視力は衰えていたものの目をこらし、
仔ネコの顔をじっと覗き込む。
その仔ネコは両目の
まぶたが上下にペロリと真っ赤にめくれあがり、
眼球が飛び出し濁って見えた。
驚きとともに、
どうしよう…これじゃあ誰も拾ってくれない…
かといってうちにはすでにネコが2匹いる…こ
のままにしたら確実にダメだ…とたんに仔ネコは
ゴロゴロと私の指にじゃれついてきた。
かなり人なつこい、捨てられたんだこの仔…そ
う感じた。
ふいに背後から自転車のベルが鳴り、
路のはじに寄る。すれ違いざまに
「うわあ!きったねぇネコ!目が腐ってらぁ!」と男の人の声。
その言葉にどきっとした。
けれど一度胸に抱き上げてしまったその小さな
仔ネコの命の重みを、また手放すことができず、
私は心を決め仔ネコを抱き直し、とにかく家路を急いだ。
その間ずっと仔ネコはかん高い声で鳴き続け、
しだいに声がかすれていった。
目が不自由になって
からこんなにも速く歩いたことがなく、気持ちばかりが
先走り白杖は
パンパン大きな音を立てた。
汗だくで家に辿り着き、仔ネコをタオルにくるみ、
すぐに行きつけの獣医さんへと駆け込む。
「ひでぇなぁ!こりゃあ!」
口は悪いがメカネの奥のまなざしは優しい獣医さん。
私は「なんとか、このコお願いします」とそれだけ
言うのがせいいっぱいだった。仔ネコはもう鳴き声
もあげない。
「あんた、拾われて命拾いしたなあ!」
獣医さんは助けることを約束してくれた。
仔ネコは推定2ヶ月、風邪をひきこしらせ目やにが
ひどくなり、もて余して捨てられたんだろうと苦々しく言った。
「こんなに人なつっこいよ、あんた飼い猫だったな」
幸い仔ネコは生命力が強かったのか、
1週間ほどで退院し我が家の一員となった。
現在10才と6ヶ月、体重7キロ。あれから健康優良児
として大きく育った。
「片目のきりんネコ」アンソニーも一目おく茶トラの美男子だ。
この春やってきた黒い小さなおてんば女のコ、
彼は彼女のいいお兄ちゃんでもある。
みんなみんな小さな命だけど、なぜかそれは
あったかく重い、愛おしさがこみ上げてくる。
今はレンゲ畑もたらの芽も病院も消えてしまったけれど、
片目のきりんネコは初めて迎えた夏以来、
ずっと毎年セミや小さな虫を捕まえては得意げに、
私の足元へそうっと置いてゆく。
ありがとね、きりんネコさん〜ごめんね、きりんネコさん。
あのとき家へと向かいながら、
私も君も「目か見えますように、きっと見えますように」って
祈ったんだ。でも片方しか助けられなかった。
彼は今日もセミがやってくる窓辺から離れない〜。
 20070827Le.jpg
posted by アンコ at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても素敵なお話感動しました。
ヨーコさんの言葉の使い方もきれいで読んでいてとても癒されます。

最後の写真は、アンちゃんが寝ている側の壁に猫ちゃんの影が映っているんですね。

写真も素敵です。
Posted by 栗 at 2007年09月05日 11:40
ヨーコさん、お久しぶりです。
今回は猫のキリンちゃんのお話だったんですね。
何度かお宅におじゃました事がありましたが、猫ちゃんはみんな隠れていて会ったことがなかったのでキリンちゃんが片目だったなんて知りませんでした。
でもキリンちゃんはヨーコさんと出会えて良かったですね。
片目は助かったし、何よりそれからの人生は幸せだったに違いありません。

でも窓の内側からじゃ蝉は捕まえられませんね(笑)

今度新しい猫ちゃんに会わせて下さいね♪
Posted by みき at 2007年09月06日 23:09
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