盲導犬アンソニーがゆく!

アンソニー(♂)  盲導犬アンソニーは、財団法人日本盲導犬協会より無償貸与されています。     

 

2007年08月23日

親愛なる102 歳のその人

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親愛なる102 歳のその人
その人は私が訪ねるといつも80歳になる娘さんの世話をしている。
娘さんは脳出血で倒れ寝たきりとなり目も不自由だ。私はときどき訪ねては娘さんの身体をマッサージする。「ねえ、ヨーコさん。母がもろこし茹でてるから食べてってね」その人は庭先で野菜をこさえては採ってきて、いつもできたての新鮮な野菜をふるまってくれる。2年前、私はその人と初めて会った。「娘も目が不自由なの、遊びにいらして」と横断歩道を手引きしてくれたのだ。以来友人としてときどき訪ねている。                                           
そっと差しだされたその人の指に触れたとき、感動で胸が熱くなり涙が出そうになった。あまりにもか細くて長いその人の指は、節くれだち古い枯れ木のようだったけれど、力強くしっとりと温かな指だった。
失礼かと思ったがしばらくはその手を放すことができず、その指の感触に酔った。
すると「百のばあさんの指ってきたないでしょう」とカラカラ笑って私の頬を撫でた。
「娘が寝たきりになったら急に元気になっちゃってねぇ。だって私が面倒みてあげなきゃ娘はなんにもできないでしょ。なんだかおおきな赤ちゃんみたいでねぇ、娘がかわいいのよ」
娘さんの介護に生き甲斐を見いだしたと言う。今こうして元気でいられるのは娘さんのお陰だと言う。
私はただその人の話を聴くだけで、なんだかその人のそばにいるだけで、ただそれだけでありがたくて泣けてくる。
「ヨーコさんは本当に泣き虫ねぇ」とまた頬を撫でてくれる。
私はその人と出逢って、初めて本気で空に神に祈ったような気がする。
「すこしでも長くあの人をいさせて」と。今日も空を見上げて空だのみする。
その人はいくつもの戦火をくぐり抜け被災しながらも、それでも生きていられることへのささやかな幸せに感謝している人だ。
そしていくびともの人に頭を下げ、農作物に頭を下げ、神に頭を下げ、苦労の日々だったろうその人生に、腰はすっかりくの字に曲がっている。

昔「人は死んだら土に返るだけだ、ばあちゃんもそろそろ土に近づいてきたんだな」子供のころ畑仕事を手伝いながら、父方の祖母がそう言ったことを思い出す。祖母はすっかり腰が曲がり、その姿は本当に顔が土につきそうなくらいだった。やがて祖母はその言葉通り土に返っていった。
 薄暗い廊下の奥からその人がゆるやかに歩いてくる。
ざるいっぱいに盛られた茹でたてのとうもろこしがおいしそうな湯気をくゆらせている。
ときおり風鈴の音に耳を預けながら、その甘い甘いとうもろこしに笑顔がこみ上げてくる。
「ヨーコさん。あのね、この秋私たち施設に入ることになったのよ」こらえようもないものが胸につきあげてくる。
私は必死で甘いもろこしの出来映えを愛でる。
帰りぎわその人は庭に咲いているコスモスを手折り、「ヨーコさんの好きな花ね。種がとれたらあちらでも蒔くからね」と新聞紙に包んで手渡してくれた。
ねえ親愛なる102歳のその人へ。
きっと私はあなたのありったけの優しさを忘れない。決して私はあなたのその強さを忘れない。そして、私の頬を撫でてくれたあなたのそのたおやかな指先はずっと忘れないだろう、いつまでも〜。 
posted by アンコ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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